お寺からのメッセージ

2024

8葉月

August

「虚往実帰」

「虚往実帰」という言葉をご存知でしょうか。書き下し分は「虚(むな)しく往(ゆ)きて実(み)ちて帰る」です。中国留学を終えて帰国されたお大師さまが仰った、広く人口に膾炙する言葉です。「行く時は、何の知識も経験も持たない自分が、多くの教えを学び、授けられ、充実して帰国できた」といった意味です。膨大な知識・文物を日本に持ち帰ったお大師さまの素直な感懐なのでしょう。

この言葉は残念ながら、お大師さまのオリジナルではありません。「荘子、徳充符」が出典です。

留学生として二十年の留学期間を課せられたにも関わらず、天性の才能をお持ちのお大師さまはわずか二年で密教をマスターして日本へお戻りになられました。

私たち凡夫はお大師さまの足元にも及びませんが、人並みの大人になるために各自が自身のレベルに合わせ、倦まず、弛まず、学びを積み重ねることが人間の証明です。まさにプチ「虚往実帰」の実践というわけです。人生の最期に「ああいい人生だった」と実感を込めて生きたいものですね。

山梨 薬王寺 小野芳幸